名古屋外国語大学教授であり日本エスコフィエ協会顧問である
佐原秋生著 「美食学入門」です。
サブタイトルにあるように“ガストロノミ”をわかりやすく順を追って、
ていねいに書いています。
「フランス 食の事典」や去年世に出た「
仏和・和仏料理フランス語辞典」で、
本当は私もガストロノミという言葉をタイトルに使いたかったのですが、
この語の社会的な認知度がどれほどのものなのか判断がつかず、採用をあきらめました。
“料理”の定義には、ワインやチーズ、語の由来、歴史的な背景などは通常、
含まれません。でも食べることを楽しんだり、考えたり、語ったりするのには
料理のいろいろな周辺情報があるほうがずっと深く楽しめます。
食卓での楽しみについての全ての分野を言い表すことばが、ガストロノミです。
第1講 「ガストロノミとは」でその語の意味、歴史、構造、知識の重要さ、
領域について明快な説を展開しています。
さらに進むとガストロノミの歴史、食材、フランスの調理、各国の料理、ワイン、
葡萄品種と産地、ワインの楽しみ方、レストランと続きます。第10講 「コトの運び」では、
店選び、予約、服装、席、メニュー、料理の注文、飲物、支払いまでレストランでの
進行に沿って具体的に述べられています。“マナー”と“日本の料理”に行き着いて
この作品が終了し、ガストロノミがわかってしまうのだからすばらしい。
とかくプロの料理人も関連専門分野の研究者もディテールに没頭し、気が
全体に及びかねる状況に陥ってしまいがちです。そんな時にこの本を読むと
目が覚めたようになり、再び新たな気持ちで仕事に取り組めることでしょう。
「美食学入門」佐原秋生著 産業能率大学出版部 2000円(税別)
「ガストロノミ」【文庫クセジュ】ジャン・ヴィトー著 佐原秋生訳 白水社刊1050円もあります。
日仏料理協会宇田川 政喜