『帝国ホテルの料理の流儀』

『調理部長にならないか、と持ちかけられたのはこの頃だ。役職からいって、帝国ホテルの調理場を動かす重要な一員だったとは思う。とはいえ、次世代を担うエースではなく、自分としては調理場全体の中でも4番手、5番手ぐらいかな、と考えていた。ところが、のちに会社の幹部から聞いて驚いた。…』.

帝国ホテルの現総料理長田中健一郎さんが最近出版した本の中にある一節です。彼が管理職になりたての頃、評価はブービーだったそうな。エリートシェフとは決して言えなかった料理人が突然、ラインのトップに立ち、それまで大切にしてきた伝統に加えて、フランス研修で培った現代の料理表現の方法を具現化する様子を見事に展開してくれています。

各所にみられる技術習得に至る過程や創意工夫の数々は、読者を料理の世界に引き込みます。さらに興味を惹かれるのは厨房改修のくだりです。大きなホテルの総料理長は、そのホテルをガストロノミックにどう表現するか、は言うに及ばず、その表現を企業家としてどのように合理的に実行するかが仕事となります。このことも『厨房の一新』 の章に詳しく書かれています。

ムニュの組み立ては、映画や演劇、音楽の構成とほぼ同じです。客に喜びや心地よい驚きを与えるために、起承転結を基本として食材、調味料、分量、調理法、温度を組み合わせるのです。著者は『ムッシュの助言「どこかで手を抜け」』の章で、ベートーベンの交響曲第6番「田園」を例にとって分かりやすく説明しています。

ホテルのフランス料理の表舞台とその背景、プロが用意するガストロノミの世界、そして田中健一郎という料理人の感性と思想、これらが詰まった、読むに値する面白い一冊です。

日仏料理協会
宇田川政喜
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