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モンテ・オ・ブール

私は、ソースの仕上げにバターでモンテする場合、火力を強めてよく混ざった状態まで放置します。四角く切ったバターをホイッパーで丹念に掻き立てたりしません。火にかけたソースに対流が起きで自然にモンテするのを利用するのです。

実は、かく言う私もかつてはホイッパーを使って、「これがソースの真髄」とばかりに入念にソースを仕上げていました。でもある時、バターを加えてからちょっと他のことをしていてソースが沸騰してしまいました。慌てましたが、私の会食者たちはレストランでのようにお金を払うわけではありません。ままよ、とそのまま使いました。それがなんということでしょう。皿に敷いても食べる時にも全然バターが分離することなく、美しい状態を保っていたではありませんか。それ以来、ホイッパーなど使わず専ら横着を決め込み、沸騰に頼るようになったのです。

ある時、我が友人の料理人にこの話をしました。その友人は、ある時期フランスで多くのコンクールに参加し、優勝を含め何度も上位入賞している熟達の名人です。「それはしてはいけないことだ」といわれると思いましたが、以外にも同意されたのです。特に宴会のような大量調理で使用するソースを時間をかけてバターでモンテするのは合理的ではない、と言い切りました。対流によって自然にできることを料理人が付きっ切りですることはないのだそうです。バターの繊細な風味が損なわれることがあるのではないか、と訊いてみましたが、そんなことはないそうです。ただ、彼が帰国してから勤務していたキッチンでは彼の意見にもかかわらず、今でも料理人がホイッパーでモンテしている、とのことです。

結果が同じなら合理性を追求するべきでしょう。さもないといつまでもフランス並みの労働条件は、日本では手に入らないのです。料理人も労働者のひとりだと私は考えています。また労働人口が減少し始めている日本社会で長時間拘束や低賃金が続くと、調理界に若い人が近寄らなくなってしまうのでは、と心配です。
フランスの現代ルセットをたくさん読んでいると、なるほどと思える工夫があちこちに見え隠れしています。単に新しい傾向を探るだけではなく、ルセットに隠された思想や社会的な制約を読み取るのもなかなか面白いものです。

皆様のご意見をお聞かせください。
afjg@dmail.plala.or.jp


日仏料理協会 http://www.afjg-japon.com/
宇田川政喜
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クスクス

8月生まれなのに、いつのまにか高温多湿の日本の夏がとても辛くなりました。それでも自分で料理は作ります。簡単なものや冷たいものばかり。で、やっと、そして突然、秋になって食べたくなったのはクスクスです。アリサをたっぷり付けて、熱々の羊のブイヨンと野菜、仔羊の骨付き背肉のグリル、コリアンダーの葉を刻んで加えた肉団子、すぐに作り始め、仲間と食べました。羊肉にクールジェットやピーマン、セロリ、玉ねぎ、にんじん…そうそう蕪を忘れたらクスクスになりません、を大鍋に入れて水を注いで煮ます。コリアンダー、クミン、ローリエ、にんにく、トマトなどにあとは塩とこしょうだけ。大衆料理を作る時には、私は灰汁はほとんどとらず、味のひとつにします。

クスクスは、北アフリカの伝統料理です。日本ではこの頃、タジーヌがやけにもてはやされているようですが、私はクスクスを好みます。多分、味の上での肉と野菜のバランスのよさが気に入っているのでしょう。以前、アルジェリアにいた頃、あるお宅に呼ばれてご馳走になったのは、メシュイという仔羊の丸ごと串焼きローストとクスクスでした。それ以来パリでも月に一度はクスクスを食べに行きました。日本に帰っても忘れられずにとうとう自分で作るようになりましたが、1980年代初めはまだ粗挽きのデュラム小麦で作るスムールの入手が難しく、フランスから送ってもらったりしていました。といっても北アフリカの家庭で作るような本格的なスムールなどできるはずもなく、フランスのどんなスーパーやコンビニでも売っている5分で作れるインスタントです。

クスクスは、1830年、ナポレオン治世後の王政復古の時代にフランス国王シャルル10世が植民地獲得のためのアルジェリア征服に出かけ、その際にフランスに持ち帰ったといいます。今ではフランス人の好みの料理のベスト5に入るほどに定着しています。この間、モロッコに言った時にも当然、ほぼ毎日クスクスを食べました。モロッコのクスクスはアルジェリアのそれに比べて淡白で上品でした。これはこれで美味なる一品です。それにモロッコでは、アリサを付けることはあまりしないそうです。レストランでも頼まないとテーブルには持ってきてくれません。中にはない店もありました。アリサとはフランス語で書くとharissaで、アラブ語ではハリサといいます。赤唐辛子やコリアンダーシード、クミン、ドライミント、にんにくなどを砕いてオリーヴオイルと共に漬け込んでなじませた香辛料です。味や香りは違いますが、中国の豆板醤に似ていますが、なんというかもっと乾いた感じの辛さです。

今では、ちょっとしゃれた食料品店には、インスタントのクスクス用スムールやアリサ(ハリサ)がありますからうれしくなります。
フランス 食の事典」(http://www.afjg-japon.com/cgi-bin/afjg-japon/siteup.cgi?category=2&page=2)にもクスクスやハリサの項があります。フランス料理ではないのにかなりなスペースを割いているのは、単に私の好みだからです。著者にはこのくらいの自由は許されると思いますが、どうでしょう?

日仏料理協会 http://www.afjg-japon.com/
宇田川政喜
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