デプイエ

フランスのフランス料理ではこのところソースの重要性が減少しています。「フランス料理とはソースである」といっていた時代は確実に遠ざかりつつといえるほどです。フランスの労働環境と衛生基準がソースの基となる自家製フォンの存在を許さなくなってきたからだ、と思っています。

当節、メディアに派手に登場する料理は、“素材を大事にする”とても美しいものが目につきます。
いい素材や珍しい産物は見つけ出して購入するだけでよく、プロの料理技術の一部ではあろうけれど本質ではないでしょう。この傾向には料理人の技術の積み重ねや幅の広さは感じられません。だから比較的若い人でも時宜に適ったセンスとチャンスがあれば一時の成功は手に入る。
一方、職人仕事一般に言えることですが、一人前になるのにとても年月がかかり、ある見方をすると労働法違反が修行の名の下にまかり通っていた、または、いるのです。現に若いフランス人はこの長時間で不規則な仕事を敬遠する傾向が随分前から見られます。精肉店や製パン店などでは親の家業を継ぐ人が減り、いくつかの職業高校ではすでに科目によっては廃止せざるをいない状況になっているのです。でもこの現実を嘆くにはあたらないでしょう。料理を志す若者だって人並みに普通の曜日や時間帯にデートをしたいだろうし、比較的低賃金に甘んじる理由もないからです。ですから少なくともフランスで丁寧な仕込みを必要とする料理を食べるのは簡単ではなくなるのではないか、と思います。近い将来、作業がより高度に機械化されない限り。

グランド・キュイジーヌの世界にはかつて“デプイエdépouiller”という作業がありました。レストランには仔牛が骨付きの半身で納入され、料理人がそれを下ろしました。その過程で生じる骨や筋、くず肉と香味野菜で肉料理のソースの基となるフォンを仕込みます。そのフォンをベースに各料理に適したソースを仕上げるのです。デプイエとは弱火にかけた鍋の表面に浮かび上がる脂肪やあくなどあらゆる夾雑物を頻繁に取り除く作業、手間がかかります。
1960年代にフランスで初めてテレビ番組を持ち、料理の評判を不動のものにした三ツ星レストラン、グラン・ヴェフールのオーナーシェフ、レモン・オリヴェという料理人は、オーギュスト・エスコフィエらが確立した近代フランス料理をより完成したレベルに高めました。オリヴェは、フランス料理におけるソースの重要性を強調し、その製造過程の一部であるデプイエdépouillerを大切にしていました。

業務用のフォンを仕入れてソースの基としている料理とデプイエをしながらていねいに仕上げたソースを用いた一品と比べたことがありますか。旨い、不味いは主観です。好き、嫌いと同じ事と言えます。でもデプイエのありなしでこんなに違うとわかる充足感は捨てたものでもありません。ただ、それができるレストランはもうないかもしれません。皆さんに親しい料理人がいれば頼んで作ってもらうしかないかもしれません。手間賃をいれると随分と高いものになりそうですが。

日仏料理協会
宇田川政喜
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