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ひらめとテュルボ

2本めとなるエスコフィエ料理のヴィデオ撮影を行いました。テーマはテュルボタン。2キロほどの小さめのテュルボをテュルボタンturbotinといいます。以前、私たちの辞典ではテュルボturbotを「ひらめ」、turbotinを「小ひらめ」としていました。日本近海ではこの魚は獲れません。だからフランス料理でもイタリア料理でもひらめをいわば代用品として使っていたからです。でも下の写真でわかるようにその姿は随分とちがうものですし、処理の仕方も、火の入れ方も同じではありません。フランスから空輸で新鮮な魚を仕入れることができるようになり、日本でも大西洋の、いわゆるドーヴァーソールと呼ばれる舌びらめや北フランスであがるオマール・ブルーなどを食べられるし、テュルボも同様になりました。

私たちは、魚に限らずサリエットなどのハーブ類や野菜でも似て非なるものを日本語に置き換えていました。動物学や植物学からみて同種や同類のものはその用途が共通していればいいし、なによりどんなものか想像できる方がまし、と判断していたのです。でも西洋野菜やハーブは種子の輸入で農家が栽培するようになったし、ジビエや魚もよく見かけます。ですから辞典もそれに即して訳語を変えていかなければならなくなったのです。
『フランス 食の事典』では「ひらめ」の項に少しだけ「テュルボ」の表記がありますが、充分とは言えません。フランスでテュルボを調理した経験のある人たちは日本のひらめとの違いがよくわかるはずです。でも事典や辞典を調べるのは未経験者が多いことを考えるとていねいな説明が必要です。

調理技術の進歩や社会の嗜好の変化などで料理はどんどん変わります。その上、流通革新が加わってくると、事典や辞典あるいは教科書も変わらなくてはいけません。でもそれはかつての料理を忘れてしまっていい、ということではありません。新しい変化は現場の料理人に任せて私たちサポーターはその後を追って用語や表現を確固としたものにすると同時にいわば温故知新を実現すべく、古典をひも解いて皆さんにお知らせする義務があると思っています。

ヴィデオの編集に手間取っていますが、春には公開できるようがんばります。

日仏料理協会
宇田川政喜

お詫び:
前回の「フランス料理とは」の中で、19世紀の料理の発展との比較としてロマネスク建築を挙げました。私は、パリのサクレ・クール寺院、リヨンのフルヴィエール大聖堂、マルセイユのノートルダム大聖堂など19世紀に建てられたロマネスク・ビザンティン様式の建造物のことを言いたかったのでした。しかし普通はロマネスク建築と言うと11世紀、ゴティック様式隆盛以前ドイツやフランスで流行ったローマ的ないしビザンティン的な建築様式を指します。
皆さんに誤解を与えてしまったのではないか、との思いから、この場でお詫び申し上げます。


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フランス料理とは

テレビ番組の中で用いるためにフランス料理の定義を知りたい、との電話がかかってきました。よくあることですが、たいがいの場合、料理知識も歴史認識もない人が、下調べもせずに電話インタヴューで片付けようとしているのでこちらも、もっと調べてから質問をするように言って終わりにします。ところが今回は様子が違い、随分と勉強をしているようだし、何より私たちが十数年前に上梓した『フランス 食の事典』を読み込んでいたので、読者を大切にしなければ、と思い、丁寧に応対しました。

その人の上司が書いたコメントの内容では、驚いたことにいまだにフレンチ=高級料理、イタリアン=大衆料理、と言う1990年代の図式がまかり通っているのです。もしそういうことならフランス人はみんな金持ち、イタリア人は庶民、となります。それに今やこれほどフランス発祥のビストロやブラスリが目立つようになって、西洋の日常食がパスタやピザだけではないのもわかってきたのに、です。どうやら一度でき上がった風評は払拭するのがどても難しそうです。

日本やアメリカで言われているフランス料理は、何度も書いているように19世紀の産業の時代が引き起こした文化の一端であるブルジョワ料理が基になっています。その時代には多くの交響曲やオペラ、印象派の絵画、ロマネスク建築、時代を少し下るとアール・ヌーヴォの美術、といった今でもヨーロッパの花と言える諸々の文化が、まるでルネサンス期のフィレンツェのように一斉に咲き誇った感があります。(それがなぜロンドンではなくパリだったのかを考えていますが、明確な答えが出ません。一緒に考えてくれる人を探しています。)

お願いがあります。フランス料理の定義に関することが皆さんの周りで話題になったらぜひこう言ってください。日本料理が懐石料理だけを意味するわけではなく、深川丼やおでん、焼いた魚の干物、それどころかカレーライスやハンバーグだってあるように、フランスにもフルコースディナーだけではないいろいろなレベルの料理があるんだと。

日仏料理協会
宇田川政喜
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