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ガストロノミ

うまい物好き、を意味するフランス語gourmetグルメはずいぶん前から日本で認知されていますが、うまい物を食べ、楽しむ術を表わす言葉がありませんでした。それが近年テレビや雑誌に「ガストロノミ」の語が散見されるようになり、私もこれ幸いと、この語の形容詞gastronomiqueガストロノミークを含めてそのまま片仮名にするようにしています。

1995年に『フランス料理用語辞典』を上梓した時から「gastronomie」の訳語には悩まされていました。当時はその訳語を「食の芸術、美食法」としています。2009年の改訂時に「食の芸術、ガストロノミ:①飲食を楽しむための術、美食法.②美味論:美味についての学問」と定義しましたが、なにせこの辞典のタイトルがフランス語でDICTIONNAIRE DES TERMES DE LA GASTRONOMIE FRANÇAISEですからこの程度の日本語訳ではもの足りません。2000年出版の食の百科事典『フランス 食の事典』ではスペースがあったので類義語を含めて多少詳しく説明をしています。

料理の盛り付けや香り、口に入った印象とその表現方法はおろか、作り方からその歴史、食材の知識、合わせるワインまですべての知識をカバーするのがガストロノミです。学問のひとつの分野として独立させてもいいくらいです。現にフランスでは一部の大学にこの講座ができたと聞いた覚えがあります。

私の欲求不満を解消し、皆さんの知的好奇心を満足させる本が世に出ました。
その名も『ガストロノミ』。我が友佐原秋生が産業能率大学出版部から出版したのです。全部で14の章からできています。
「ガストロノミとは」から始まっています。ここではgastronomieというフランス語の語源から意味まで丁寧に説明しています。その後「フランス料理の歴史」「諸国の料理」「日本の料理」「フランスの食材」…と続き、ワイン、レストラン、サービス、マナーにまで言及しています。この一冊さえあれば食べる楽しみを知的に増大する「ガストロノミ」を理解できます。所々出てくるコラムにも楽しい豆知識が満載です。

タイトル:『ガストロノミ』
著者:佐原秋生
出版社:産業能率大学出版部
価格:2100円

近所の本屋になければアマゾンで簡単に注文できます。
ぜひご一読の程を。


日仏料理協会
宇田川政喜
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フォワ・グラ

テレビ番組用にコメントを求められました。コンビニチェーンが発売予定だったフォワ・グラ入り弁当を取り止めにした件についてです。動物愛護団体の一部は、以前から鯨やいるかを食べることなどに反対していますが、今回は鴨や鵞鳥の強制肥育によって得られるフォワ・グラに反対してこの弁当を対象にし、抗議したのをコンビニ側が受け容れたのです。

おそらく2万年くらい前から農耕と共に牧畜も始まりました。フォワ・グラの歴史は少なくとも古代エジプトには始まっていて、古代ローマでは鴨や鵞鳥にいちじくを与えていたとの記述があります。ご存知のように渡り鳥の水鳥は、らくだがこぶにエネルギー蓄積をするように、肝臓に長旅のためのエネルギーを貯めておくのであって、私たちが問題としている病気の元となる肥大肝臓とは違うのです。その機能を利用して、生きるための必要量を大きく超えて餌を与え、肥大肝臓を作り出すのが、フォワ・グラです。病死一歩手前まで肥育させる和牛と同じです。

すべての動物は、食べなければ生きていけません。ヒトは、他の動物と同じように飢えとの闘いをしてきました。安定的に食べられるようになると、食べることに楽しみや喜びを見出すようになります。ガストロノミの本質です。栄養の摂取過多が健康に影響を及ぼすと知的にはわかっていても遥か昔の飢餓を体が覚えていてついおいしいもの、つまりカロリーの高いものを食べ過ぎてしまいます。霜降り牛やフォワ・グラ、ケーキが好きなのも当然といえば当然です。ましてや霜降り牛に比べてずっと歴史の長いフォワ・グラはあこがれの食材でした。今、それを口にできるようになった庶民を非難することはできません。

雑食性であるヒトは、狩猟・採集の太古の昔から動物や魚を取って命を紡いで来ました。地球上に90億人にもなってしまったヒトが今でも狩猟・採集というわけには行かないでしょう。その点、魚の養殖や牧畜は理にかなっているのではないでしょうか。自分が食べないからといって他の人たちが食べているものを非難する権利は誰にもありません。昆虫を食べようが、犬肉を食べようが自由です。ミニ豚を愛玩する人もいればとんかつを好きな人もいるのです。飲食に特別のタブーを持っていない日本人は、ピュリタン(=清教徒)的な基本哲学を未だに持っているアメリカ人や豚などを決して食べないイスラム教徒の主張するように食生活を送らなくともいいはずです。

他人に迷惑をかけない程度の自由を妨げない器量を持ちたいものです。

日仏料理協会
宇田川政喜
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