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食の悦びを追及するガストロノミには脇役が多く存在します。レストランに入って席に着き、サーヴィス係が持ってくるメニュー表もそのひとつです。どんな料理があるのか、今日はどんなものにしようか、と想いを巡らせながら美しいメニュー表を開くのはわくわくします。

時代を創ったパリのマキシムのメニューの表紙は当時の流行イラストレーター、セム(本名ジョルジュ・グールサ1863~1934)が担当していましたし、アール・ヌーヴォの画家がメニュー表の中に絵を描き、水茎麗しいカリグラフィで料理名を手書きしている店もありました。ファミリーレストランやチェーン居酒屋の写真付きメニューもわかりやすさという点でよくできていますが、これから始まるガストロノミの世界を想い起こさせるにはやはり美食的な美しさが必要です。

日本のレストランでは同じようにはメニューを作れません。アルファベットで統一できないからです。メニューは品書きですからどんな料理が用意できるかを知らせなくてはなりません。ですから日本では日本語が必須です。日本料理の名店では料理長が素晴らしい筆の力で墨で和紙に書き付けますが、フランス料理ではそうもいきません。現代のほとんどのレストランではワープロで文字を打ちます。無味乾燥、とは言いませんが、手書きの優しさにはかないません。おまけにフランス料理の料理名には食材や調理法にフランス語が多く、必然的に片仮名が目立つようになります。一見すると「チチキトク」や「ニイタカヤマノボレ」といいた昔の電報文の様になってしまいます。ですから私の関わるメニューにはなるべく角の多い片仮名を減らして曲線の美しい平仮名を用いるように勧めています。また漢字もいいのですが、魚の名前のように画数の多いものは眺めてみるとその部分が黒々とします。メニューの絵柄のアクセントとして部分的に黒々するのもまた一興です。「ニンジンのポタージュ クレシ風」より「にんじんのポタージュ クレシ風」の方が目に優しいと思います。新聞や雑誌を読むと食材にやたら片仮名を使っていますが、これは本来植物・動物辞典などで用いるいわば学術用語であって料理にわざわざ使わなくてもいいのではないでしょうか。

もうひとつメニューを作る上で気を付けなければいけないことがあります。フランス語です。日本人に読ませるのならフランス語は不要と思いますが、どのレストランでもフランス語・日本語の併記となっています。それならばせめて間違いがないようにしてほしいものです。外国語だから仕方がない、などといわずに名詞と形容詞の性・数の一致その他に注意してほしいのです。どんなに美しくてもおいしくても間違いだらけのメニューは興ざめですから。
Bon apétit!
日仏料理協会
宇田川政喜
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