フォワ・グラのテリーヌ

日本の外食産業はとても研究熱心です。かつてはフランス料理の高級食材として知られていたフォワ・グラがファミリーレストランや居酒屋で注文できるようになりました。

フォワ・グラはご存知のように鴨や鵞鳥といった渡り鳥の肥大肝臓です。これらの鳥は、長くてハードな移動期間の栄養を蓄えるためにらくだがこぶに貯めるように肝臓に脂肪を蓄えるのです。だから多くの人が考えているように強制肥育だけによって脂肪肝を作っているというだけではなく、もともと備わった自然のエネルギー蓄積システムを人間が利用しているのです。もし強制肥育だけで脂肪肝が得られるのなら鶏でもできるはずでしょう。ですから鴨や鵞鳥の肝臓は、病的な人間を含めた他の動物のそれとは区別するべきなのです。

閑話休題。私はフォワ・グラのテリーヌが大好きです。私の料理知識の先生でもあるリヨンのMOFシャルキュテイエ、ジョルジュ・ドラングルさんの作る抑制のきいた上品な鵞鳥のフォワ・グラのテリーヌは、今でも夢に出てきます。フランスには鴨、鵞鳥ともフォワ・グラには日本の和牛のように1級から5級のランクがあります。適度な大きさで脂肪が多すぎず少なすぎず、痣や傷のないものが1級です。そして鵞鳥の方が鴨より1.5倍ほど高いのです。今は知りませんが、かつては1級のフォワ・グラは日本に輸入されず、フランスで消費されていました。
レストランでは鴨のフォワ・グラをフライパンでソテすることが多いのですが、味の濃いフルーツ系のソースなどを合わせることを考えてあえて苦味の強い鴨を使うのです。
テリーヌは、ポルト酒、パプリカパウダー、塩、胡椒を振ってなじませておいた鵞鳥のフォワ・グラを厚手のテリーヌ型に詰めて低温のオーヴンで加熱し、ゆっくり冷ましてから冷蔵庫でなじませた料理です。ドラングルさんはフォワ・グラの香りに邪魔になる、という理由でトリュフを加えることも好んではいませんでした。

先日パリの2つ星レストランで近年にしては珍しくフォワ・グラのテリーヌがあったので注文しました。今どきのガストロノミックなレストランですからとても上品に小さな直方体にカットされたテリーヌが3つほど付け合わせとともに皿に鎮座していました。フォークで刺すのも惜しいようにきれいに盛り付けされた品を口に運んで少し驚いてその後少しがっかりしました。バターのような舌触りなのです。フォワ・グラの風味も心なし淡い。かのオーギュスト・エスコフィエも言っているようにシャルキュトリの名人が作るテリーヌに料理人のそれはしょせんかなわない、というのがもし正しいとしても2つ星のレストランならもう少し何とかなるだろう、と思いました。私なりに原因を考えてみると、そこには調理機材の現代化がみえるのです。伝統的なオーヴンで加熱するとどんなに上手に工夫してもどうしても脂肪が融解分離し、20~40%のロスが出るのです。一方、現代のコンヴェクションオーヴンや真空調理法を利用するとほぼロスが出ません。原価率に大きく影響するし、新調理法で機械的に調理をコントロールする方が技術的なリスク、つまり失敗がないのです。その代わり脂っこさが出てしまうのです。レストラン経営者としてフォワ・グラのテリーヌの製造過程で生じるロスを減らすことを追求してきた私へのしっぺ返しのような食事でした。
脂肪だらけの和牛肉を食べるにもしゃぶしゃぶにしたりして脂肪を落とします。本当に美味なものを追求するには経済効率を同時に求めてはいけないのでしょう。やはり「おいしいものをリーズナブルなお値段で」「や、安くておいしい」はしょせんそれなりなのでしょう。

日仏料理協会
宇田川政喜
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