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フランス料理のこれから II

ガストロノミックな料理つまり高級西洋料理の調理は、社会が階層化した時代から現代に至るまでずっと専門家である料理人の仕事です。つまり料理人を雇う財力のある人だけに許された贅沢だったのです。それが1789年のフランス革命以降、王や貴族による雇用がなくなった料理人たちが産業家と組んで街に出て、レストランを興します。城や館で抱えていた料理人を不特定多数の人間が共有することになるのです。

このことをコストの面からみるとどうでしょうか。2000年ほど前の古代ローマの貴族アピキウスは、大勢の友人を招いて大宴会を開くのが常でしたが、ある日自分の財産が3億円しかないことに気づき、最後の晩餐会の後毒を仰いで自殺してしまったという逸話が残っています。自由、平等、博愛を謳ったフランス革命後の19世紀のパリの高級レストランの客単価は20万円とも30万円ともいわれます。そして21世紀の今、一人10万円のレストランはほとんど存在しません。この2000年の間の富の平均化を目の当たりにすると人間、随分平等になったなあ、と思いませんか。少なくとも日本ではその気さえあれば超高級レストランでランチを楽しむことくらいできそうです。でも古代ローマの3億円パーティーや19世紀の一人30万円の会食と同じようなものが食べられるとは思ってはいけません。平等化、民主化、合理化などによって手に入れられるものは、恐ろしいほど不平等な時代のそれとは本質的に異なったものなのです。昔がよかった、と言っているのではありません。ただ、何十分の一、何百分の一の対価で、同じものが手に入るはずがないと言っているのです。これは美食に限ったことではありません。ルネサンス様式、バロック様式、アール・ヌーヴォ様式の建築も今作るとすればとても考えられないほどの費用が掛かるのです。それでも建築は大切にすれば残りますが、ガストロノミはただ消えて行ってしまうのです。

食に贅を極める、という時代はもう戻って来ないでしょう。今はなんちゃってガストロノミの時代です。せめて懇意になった料理長に頼み込んで好きな料理を一品か二品特別に用意してもらう程度のことしかできないのではないでしょうか。

日仏料理協会
宇田川政信
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